野村エンジニアリング

より遠くへ! 遠距離通信を実現する LDMテクノロジ紹介

無線通信では常に“より遠くへ”という要求があり、技術者にとってはいつの時代も大きな課題となっています。ここでは当社で開発し、現在TS02EJシリーズに搭載しているLDMシリーズについて解説します。

実現する方法

特定小電力無線モジュールは電波法により、出力10mW(0.01W)と送信アンテナのゲインが規定されていますから、送信側でできることはほとんどありません。遠距離通信を実現するには受信側でいかに性能アップさせるかがポイントになり、考えられる方法としては次のようなものがあります。

(1)ゲインの高いアンテナを使用する
受信側にゲインが大きい指向性アンテナ(多素子の八木アンテナ)などを使用して感度をあげる。相手の声がよく聞こえないとき、耳に手を当てるのと同じです。

(2)ハードウェアで受信感度を改善
受信感度を上げるためにNF(雑音指数)の低いデバイスを採用したり、他の信号の妨害やノイズを軽減するために、フィルタを入れてS/N比の改善を図りますが、既に限界に近い値となっています。
またアンテナダイバシチなど受信を多数用意することでも、通信距離を伸ばすことができますが、アンテナや受信機が複数必要でスペースもコストもアップします。

(3)ソフトウェアによる方法
ディジタル信号処理技術が発達し、最近では小さなマイコンICでも高い処理能力が得られます。無線通信の変復調に情報数学理論を適用しスペクトラム拡散の技術を取り込むものです。この方法はソフトウェアで処理するため、コンパクトで大幅な受信感度の改善が見込まれます。しかし受信感度と伝送スピードがトレードオフの関係にあるため、受信感度がアップする反面、伝送スピードが低下するというデメリットが発生します。

スペクトラム拡散テクノロジを特小無線モジュールへ適用

上記(3)のスペクトラム拡散通信(以下、SS)は元々軍事技術として開発されたもので、今では携帯電話や無線LANなどに当たり前に使われています。SSは信号処理にディジタル技術を活用し、送信側は伝送する情報の帯域以上に広げて送信します。受信側ではノイズの中の受信データから同期検出と同期捕捉を行ながらデータを復元し、高い受信感度と耐ノイズ性を実現しています。

スペクトラム比較
図1 周波数変調とスペクトラム変調の帯域幅の比較

429MHzの特定小電力無線の規格では送信電力や占有周波数帯幅など電波の質が細かく定められていますので、当社のLDMファームウエアは、このようなSSのテクロノジを組み込みながら伝送レートを落とすことで実現しています。

信号とノイズ

それでは実際に通信する場面ではどのような状態になっているか考えてみたいと思います。アンテナから送信された電波は空間を通って受信アンテナでキャッチされます。空間には他の通信電波や様々な機器から発せられたノイズがたくさんあって、特に市街地においていは都市ノイズが大きくS/N比(信号雑音比)が悪化して通信距離が低下します。郊外と都市における目的信号とノイズの様子を図2に示します。

SN比較図

図2 ノイズが少ない場合(郊外)と多い場合(都市)のスペクトラムの様子


受信機の感度はいくら上げても目的信号とノイズの比は同じです。また受信機内部での混変調や相互変調によってますます悪影響が生じます。遠距離通信を実現するには、ノイズにまみれたデータからいかにサンプリング数を上げて精査し、受信機システム全体としての総合的な性能が得られるかが求められます。

無線モジュールを選定する

図3はモジュールの送信出力波形と受信モジュール内でマイコンが処理する波形のイメージです。このようにノイズが増えると、波形を目で見ても雰囲気すら分からなくなります。当社のLDMタイプはその信号から復調を行うのに、SS処理とディジタルフィルタリングを低消費電力かつ柔軟に構成できるマイコンで処理して同期処理を行っています。その結果、ディジタル処理でおよそ受信感度を6dB確保し、通信距離では約2倍の改善が見込まれます。
しかし処理が多くても消費電力が増えてはいけません。TS02EJシリーズは動作電圧2.1~7.0Vで送信時の消費電流約26mA、受信時は約18mA。小型軽量とバランスよく仕上げました。また応答速度が必要なアプリケーション向けに通信速度が違う “LDM”と“LDM3”の2タイプをご用意しています。

波形の違い

図3 送信波形とマイコン処理波形
 

表1は当社429MHz帯無線モジュールの主なスペックを比較した表です。SSを駆使したLDM3シリーズが消費電力1mW当りの通信距離が群を抜いていることが分かります。

タイプ TS02EJ STD
TS02EJ LDM TS02EJ LDM3
見通し通信距離 800m(実測値) 1.5km(実測値) 7km(実測値)
伝送スピード 1,800bps 100~200bps 10bps
受信側応答速度 約70mS 約800mS TBD(約1.5S)
動作電圧 2.1~7.0V 2.1~7.0V 2.1~7.0V
受信時消費電力 31.5mW(2.1V) 37.8mW(2.1V) 37.8mW(2.1V)

消費電流1mW
あたりの通信距離

25.4m/mW 39.7m/mW 185.2m/mW

表1 タイプ別の主なスペック
(見通し通信距離は測定環境で大きく異なるので、一つの目安としてください)。


  

各タイプの通信距離と伝送スピードをイメージにすると図4のようになります。

LDMイメージ図

図4 各タイプの比較イメージ
  

無線モジュールは様々な周波数や方式、価格のものを用意しています。選択にあたっては、システムに合った周波数・アンテナ形式・環境などに見合ったものを採用し、実際に使用する環境で十分にテストすること、フェイルセーフについても考慮することが無用のトラブルを避けるためのポイントでしょう。

 

参考資料

CQ出版 Interface 2007年2月号 P119~ 通信性能を向上させるためのノウハウ 野村 徹 著


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